『怪談』

 以前から是非見たいと思っていた「怪談」をやっと見ることができた.映画館内は5人ぐらいの観客しかいなかった.家族連れで見ることができるアニメや、CGを使ったアクション巨編などに流れて、怪談など見る気が起きないのだろうか.ホラーというとまた別なのだろうが.
 「怪談」は、「リング」中田秀夫監督の作品なので、どうやって怖がらせてくれるのだろうかと楽しみにしていました.物語のほうは、円朝物として、今までに何度も聴いたことがあるし、芝居でも見たことがあるので、どう映像化するのだろうかという興味がありました.
 冒頭、講談師で人間国宝、道具や照明を使って怪談噺を高座にかけている、一龍斎貞水師匠が、本編の主人公である、豊志賀と新吉の関係を語って聞かせ、それを映像化しているのだが、舞台を見ているようで、芝居好きには嬉しい趣向といえるでしょう.本編に入ってからも、原作を忠実に描いていき、昔の怪談物のように形相で怖さを感じさせるというよりも、音楽とセリフで見るものを怖がらせます.
 新吉役の菊之助は、若くて美男子で適役だと思うのですが、豊志賀役の黒木瞳は現代劇のイメージ、ことに「失楽園」のイメージが強く、私個人としてはあまり好きではありませんでした.新吉とは親子ぐらい歳が離れているという設定ですので、どうなのかなという感じがしないでもありませんでした.
 見終わって感じたことは、六代目円生や八代目正蔵の噺で何度も聞きましたが、話芸というものは、聞き手が想像力を駆使する部分があるので、全部映像化して見せられると反って怖さを感じませんでした. 
 一人で背景もなく、〈芝居噺は道具と下座音楽を使うことがありますが〉語りだけで、人間の業の深さを感じさせる。「噺家」というのはスゴイと思いました.
 元々、『古累ふるがさね』という話があり、歌舞伎のほうでも、『かさね』〈本名題・色彩間刈豆いろもようちょっとかりまめ〉としてお馴染みで、映画の中でも小道具として重要な鎌が使われています.
 「怪談」は、全体的には良くまとめられているように思えました.長編を2時間にまとめるのは大変だったと思います.興味のある方は、原作をお読みになると、より「怪談」の内容がわかり、面白いと思います.