勘三郎奮闘公演

新橋演舞場で公演中の「錦秋演舞場祭り・中村勘三郎奮闘」の夜の部を観劇した.
今回,昼の部は「大歌舞伎・俊寛/連獅子/人情噺文七元結」だが、歌舞伎ファンは多く、チケットが取れない.今回観た夜の部は、「森光子・中村勘三郎特別公演/寝坊な豆腐屋」という現代劇である.
話題は,何と言っても森と勘三郎の初共演ということである。長い舞台人としての経歴の中で、二人が初共演であると言う事が信じられない。十七代勘三郎とは共演の多かった森光子も、当代と共演するのは初めてのこと。
今回は、どちらも芸達者で知られ、どんな舞台が展開するか楽しみにしていたが、電車が事故で遅れて劇場に到着したのが開演スレスレの状態であった。とりあえず二階後方の席につきホッとする間もなく開演である。
舞台が廻るとそこは昭和30年代(東京オリンピックの二年前とのことなので、昭和37年)の東京の下町の豆腐屋の店と座敷。布団の中に一人の男が寝ている。主人公の豆腐屋清一(勘三郎)である。寝ている清一が夢を見ているうちに朝の7時。豆腐屋の店先には常連のお客が並んでいる。明朝はきちんと豆腐を作ると約束する清一。この豆腐屋を中心に、姉と町の同級生などが絡み、町の開発が絡んで、そこに36年ぶりに現れたのが、清一の実の母親(森光子)。母親は元芸者で父親と結ばれ、清一が産まれたが、清一が6歳のときに家を出て音沙汰無しの状態であった。何が原因であったかは劇中で明かされるが、波乱万丈、さて、この親子の運命は・・・・。ということで筋が運ぶ物語である。
共演者は、波乃久里子米倉斉加年佐藤B作中村扇雀片岡亀蔵坂東弥十郎中村勘太郎金内喜久夫、田根楽子など、歌舞伎界からの俳優の参加もあり、豪華なメンバーで芝居を楽しむことが出来た。
終幕での勘三郎と森光子のやりとりは、場内からすすり泣きの声が聞こえてくるほどの熱演で、アドリブもあり、二人の芝居の真骨頂というところか。昭和ノスタルジー的な作品が映画などでもはやっているが,今回も、人情喜劇とでも言うものか、場内は中年の女性でいっぱいであった.常に思うのは、劇団のアンサンブルというか、まとまりの良さが芝居を面白くするということである。主役が引き立つのも良い脇役があってのこと。今回は、米倉斉加年がとても良かった.一人の舞台になっての、流れるようなセリフには感動した。田根楽子という役者が上手いと思い経歴を見ると、舞台はもちろんテレビドラマなどに出ているし、見たことがあると思ったら、テレビドラマ「ふくまる旅館」レギュラーとあり思い出した。他もそれぞれがキャラクターを活かした役柄で奮闘している。
それほど気負って観なくてもいいドラマになっており、自分が育った時代の物語であり,作者が言う「現在と連続する昭和30年代を描いてみたい」という意図がわかるような気がする芝居であった。
昼の部の「人情噺文七元結」は、三遊亭円朝の作品であり、数多くの噺家の口演を聴いたり、先代勘三郎や当代菊五郎、二代目松録などで観てきたが、今回は、映画監督の山田洋次が補綴し、映画に撮ると同時に演出もしているようなので、是非観てみたい舞台ではあった。来年、シネマ歌舞伎として公開されるのが、(地方での上映はないと思うが)楽しみである。昨日の文楽公演鑑賞に続き多少疲れたが、楽しめる公演であった。