『憑神』を観る

新橋演舞場で公演中の『憑神』を観た.浅田次郎原作を舞台化したもので、映画化もされたので,どのように違うか観たいと思っていたところ,ありがたいことに,丸札が廻ってきたので喜んで出かけたのである.
ニ幕十場。休憩を含んで三時間の舞台である.場内に入るとロック調の音楽が流れている.
開幕は,土手のように高くなった所に一人の侍.主人公の別所彦四郎が立ちションをしているうちに滑って落ちたところに古びた祠。「三巡稲荷」と書かれている.『三囲稲荷』と間違って手を合わせてしまう発端である.このあたりは映画と同じである.次に戦場の場面となり、先祖が家康の影武者であったことを見せながら,大きな幕が武者達によって広げられるとそこに大きく『憑神』の文字が現れる.プロローグというところであろう.
次いで,彦四郎が家に戻って母にその話をすると,その祠は「憑神」の祠であると説明される.その後早速両替商の伊勢屋となって「貧乏神」が現れ,義理の父である井上家に宿替えをすると、別所家は貧乏から抜け出て,井上家が火災にあうということになるが,次に現れたのが,力士に姿を変えた「疫病神」が現れる.これまた宿替えをするのだが,その相手が実の兄。零落していた別所家を彦四郎が建て直すが、最後には『死神』が現れるという.どのような姿で現れたかは,原作をお読みになった方はお分かりと思うが,ここが映画と芝居の違うところでした.後はおつやという芝居の眼目になっている女性が絡んでの芝居で、設定が子どもでなく大人になっているところがちょっと違う。ナマのステージは動きがあるし,映画はナマでは出来ないテクニックがあるし甲乙付け難しというところ.出演も彦四郎に中村橋之助、母親に野川由美子、兄夫婦にデビット伊東と秋元奈緒美、つやの役に鈴木杏、他に升毅、コング桑田、蔓山信吾など。演出がG2という人(昨年,同じメンバーで「魔界転生」を演出〉で,アップテンポでなかなか面白い芝居になっていました.時代劇でありながら,現代に通じるメッセージを持っているところは、サラリーマン社会にも通じ,原作の素晴らしいところでしょう.映画と比較はできませんが、映画のほうは,おつや役が子役(原作どおり〉になっており、演技のうまさとかわいらしさも手伝って映画のほうがインパクトがあったような気がします.でも,ナマの舞台ももちろんいい出来で、捨て難いものがありました.