「映画」虎の尾を踏む男たち

BSで黒沢明の特集をやっており、しばらくぶりに『虎の尾を踏む男たち』を見た。この作品が能の「安宅」や歌舞伎の「勧進帳」をベースに作られているのはご承知のとおりであるが、強力の役でエノケンこと榎本健一が出演しているのがミソだ。
ストーリーは、義経一行が兄の頼朝の厳命により、奥州へ落ちる途中で捕まえるよう設けられた、安宅の関所での尋問がテーマになっている。弁慶が主役で、関守の富樫佐衛門との問答が見どころのひとつでもある。弁慶が大河内傳次郎、富樫が藤田進という役どころ。供の者で森雅之志村喬河野秋武といったところである。そして義経役で岩井半四郎が出演している。   歌舞伎でも見どころである白紙の勧進帳を読み上げるところ、そして、通行を許されそうになった時、強力に身を変えた義経が見とがめられ、弁慶が主を金剛杖で打つところなど、その後関を抜けたところで弁慶が義経に謝り、酒を飲んで延年の舞を舞うところ(滝流しというところ)が見どころ。映画では、エノケンが強力役で出演、コメディアンとしての持ち味をいかんなく発揮している。解説で、和製ミュージカル映画というような解説がありましたが、以前私も書きましたが、「鴛鴦歌合戦」という作品で、志村喬片岡千恵蔵、そして歌手ではあるが、ディック・ミネがタップリと歌って聞かせてくれている作品がある。是非一度ご覧あれ。珍品ですよ。
元に戻って、「虎の尾を踏む男たち」であるが、エノケンが出ていることにより、義経一行が落ちていくという、哀れさが引き立っている。エノケンは、「孫悟空」や「法界坊」といった主演の傑作もあり、浅草オペラで活躍した他の役者などとひけはとらないと思う。喜劇界の王者ということができるであろう。